不動産業界の中でも先進的にグループで環境課題に取り組む東急不動産ホールディングス(以下、東急不動産HD)。彼らの掲げる「WE ARE GREEN」の取り組みを、どのように企業価値につなげていくのか。野村證券は2025年12月、日本で初めて、国際資本市場協会(International Capital Market Association、以下ICMA)のガイドラインに沿ったクライメート/ネイチャー・リンク・ボンドの発行を提案しました。
前編では、野村證券がどのような経緯で提案に至ったのかをお届けします。東急不動産HD側の視点は、後編でご紹介します。
まずは、東急不動産HDとの対話を重ねてきた野村證券 コーポレート・ファイナンス四部の三浦康裕、提案を組み立てたサステナブル・ビジネス開発部の山口耕平、そして提案全体をハンドリングした同部の待山 駿、それぞれに話を聞きました。
Q. 東急不動産の窓口として、日々の業務から教えてください。
- 三浦
所属するコーポレート・ファイナンス四部では、鉄道、建設、不動産・REITの企業担当として株式・社債の発行をはじめとした資金調達サポートやM&Aアドバイザリー、金利ヘッジソリューションや不動産の仲介など、総合的に企業の成長支援を行っています。東急不動産HDは「WE ARE GREEN」というスローガンを掲げて再生可能エネルギー(再エネ)事業に力を入れていたので、再エネに関するM&Aや資金調達の提案・サポートに注力してきました。
日々のやりとりでは、足元の株式や債券マーケットの報告、調達手法の提案やIRサポートをはじめ、不動産案件の紹介などを行っています。先方の様々な部署の方々と継続的にコミュニケーションを取っているのですが、その積み重ねが大切だと考えています。

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- 野村證券 コーポレート・ファイナンス四部 三浦康裕
Q. 企業の担当として意識していることは?
- 三浦
大事にしているのは、提案のタイミングと対面での会話です。直接お会いして提案したり、日々のコミュニケーションを重ねたりする中で、お客様の雰囲気や表情から気づくことがあります。そうした小さな変化を見逃さず、次のフォローにもつなげています。
いつか必ず何らかの案件でお役に立てるよう、これまでの担当者が積み重ねてきた信頼関係を大切にしながら、いかにお客様との関係をより強固にして今後につなげていけるかを常に考えています。
また、お客様の変化を見逃さないためにも、できるだけ対面の機会を大切にしています。社内の色々な部署のスペシャリストと一緒にお客様を訪問しながら意見交換を続けていく。一人でできることには限界があると思っているので、いかに野村の強みであるそうしたリソースを活かしていくか、つまりお客様のご意向を伺いながら、社内の最適な人につなげる良いハブになれるかを常に考えています。
Q. 今回はどういう流れで話が進んでいったのでしょうか。
- 三浦
東急不動産HDとは、以前から再エネ分野で当社サステナブル・ビジネス開発部のメンバーとディスカッションをしたり、ノムラ・グリーンテック※の他社に先駆けた実績などについて情報提供を行ったりしていました。2024年度は、再エネ事業を手掛けるリニューアブル・ジャパンのM&A案件(2024年11月公表)をファイナンシャル・アドバイザーとしてサポートさせていただきました。
今回は、2025年内に必要な資金調達案件だったので、他社にも基本的な情報がある中で、どのように差別化できるかを軸に提案を考え始めました。東急不動産HDのIRやサステナビリティの部署の方とも意見交換をする中で、サステナビリティが重要なポイントであることは認識していました。そこで、当社の待山さんと山口さんと具体的にどのようなポイントを打ち出して提案をすべきか、議論を深めていきました。
※ノムラ・グリーンテック:野村ホールディングスが2020年に買収した米国「Greentech Capital Advisors」を前身とする、サステナブル技術・インフラ分野に関連したアドバイザリーをはじめとする投資銀行サービスを提供するチーム。再生可能エネルギー、環境技術/システム、水、廃棄物等のサブセクターを中心に、グローバルに連携して支援。
Q. サステナブル・ビジネス開発部としては、どうやって今回の結果に行き着いたのですか?
- 待山
私たちの発想の原点は、お客様の企業価値向上、つまり中長期的にも株価をどう上げていけるかです。5年後、10年後のために、東急不動産HDは今何をどう打ち出すべきか。お客様のニーズに対して、ファイナンスを通じて、まだお客様自身も気づいていない価値をいかにマーケットや投資家に打ち出していけるかが重要だと考えています。今回は、山口さんが少しユニークなスキームを考えてくれました。

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- 野村證券 サステナブル・ビジネス開発部 待山 駿
- 山口
東急不動産HDは、渋谷や表参道などの再開発事業においても生物多様性を強く意識していますが、その積極的な環境への取り組みを、いかに企業価値につなげられるかは非常に難しいテーマでした。その打ち出し方について、マーケットに対峙している私たちとして何らかの形でお手伝いがしたいと強く思いました。お客様とのディスカッションを通じて解決策としてたどり着いたのが、今回本邦初となるクライメート/ネイチャーリンク・ボンドでした。
Q. その解決策とは、どういうもので、何が初めてなのですか?
- 待山
クライメート/ネイチャーリンク・ボンドはESG債の一種なのですが、資金使途を特定するのではなく、グリーンに関する目標にコミットする、つまり、目標設定に連動して発行される債券です。
そして、ESG債には設計に際して一定のルールがあります。そのルールを作っているICMAという国際機関が、2025年6月に、自然・生物多様性に関連する取り組みへと資金が回っていく枠組みとして、ネイチャー・ファイナンスに関するガイドを公表しました。私たちがいち早くそのガイドに沿った提案をしたことで、日本で初めての発行につなげることができました。
加えて今回は、生物多様性にフォーカスしつつ、建設資材の調達から販売した建築物の使用・廃棄まで、サプライチェーン全体で発生する温室効果ガス(GHG)、いわゆるスコープ3排出量の削減にも取り組んでいます。東急不動産HDは、2030年までにCO2排出削減量と森林保全面積に関する目標を掲げており、その達成に向けたコミットメントをより明確にする仕組みとして、環境保全団体などへの寄付を位置づけています。そういう意味でも、今回のクライメート/ネイチャーリンク・ボンドの発行は、脱炭素と生物多様性保全に正面から取り組む会社の姿勢を対外的に示すものになっています。
出典:資源エネルギー庁ウェブサイト: 知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは|エネこれ|資源エネルギー庁
- 三浦
スコープ3はサプライチェーン全体の削減目標なので、自分達だけの努力では達成できません。それでも、サプライチェーン全体の脱炭素化は必要だと考え、そのファーストペンギン(先駆け)になりたいという強い思いがあったのだと思います。そこまでのコミットには本当に驚きましたね。

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- 野村證券 サステナブル・ビジネス開発部 山口耕平
Q. スコープ3まで挑みましょう、という提案は相当ハードルが高いですよね?
- 山口
確かに不動産業界ではとても難しいと思います。建材の製造・施工段階におけるCO2排出量は多く、例えばコンクリートを作る時の排出量も、経済的合理性があるやり方で削減する方法はまだ確立されていません。ただ、環境課題への東急不動産HDの取り組みを見ていると、発信できる素晴らしい側面が色々あると感じました。
もちろん、そこに至るまでにはお客様からもたくさん話を聞いて、自身でも環境保全に取り組む長野県蓼科の「東急ハーヴェストクラブ蓼科」に実際に足を運んでみました。動植物の保護や100%再生可能エネルギーの実現など、実際の取り組みを自分の目で見ることで、東急不動産HDが何を考え、どういった事業を通じて、どこを目指しているのかを、より具体的にイメージできました。その経験があったからこそ、より踏み込んだ提案をしてみようと。私たちの役目は、資金調達のサポートをすることなので、発行体(事業主)が調達した資金をどういった事業に、どのような形で使っていくのかを投資家に伝えることも重要です。その意味でも、自分の目で見て良かったなと感じています 。

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- 東急ハーヴェストクラブ蓼科
- 待山
私の信条は「答えは現場にある」ですが、チームメンバーにも、常に自分の目で見ることは大切だと伝えています。その上で、お客様や投資家を深く理解するだけでなく、マーケットの方向性や社会としてのあるべき姿も考えながら、お客様に最も適した商品をご提供することが大切です。
Q. 改めて、今回の提案が採用された要因はなんだと思いますか?
- 山口
お客様自身でも気づいていない部分を提案に反映したことが評価されたのだと思います。具体的には、環境問題への取り組みが企業価値に繋がっていくということです。東急不動産では、サステナビリティに取り組むことが社内的に当たり前になっていて、その価値への認識があまり持たれていなかった。そこで、1年半ほどかけて、彼らが取り組む再生エネルギー、脱炭素、生物多様性、循環型社会は、必ず企業価値向上に繋がっていくと訴え続けてきました。加えて、森林保全や再生材で建物を建てていることなど、細かい環境への配慮も資金使途にしたらどうかと提案しました。
Q. 最後に、お客様と向き合う上で、大切にしていることはなんでしょうか?
- 山口
お客様のためになると思うことを、自ら仮説を立てて考え、提案することを大事にしています。具体的には、企業価値向上を実現するという軸で、コーポレートアクション(企業の財務上の意思決定)や資金調達を提案することを意識していますし、それがお客様の成長にもつながると信じています。一方で、資本市場の健全な発展も意識する必要があるので、時にはお客様に対しても、違うことは違うとお伝えすることもあります。正しいと信じることをお客様にも伝えながら、常にお客様ニーズと資本市場への影響のバランス感覚を持って向き合うことを大切にしています。