スタートアップのIPO支援―野村の流儀|IPO支援、投資銀行、事業紹介

スタートアップのIPO支援で野村が大切にしているのは、経営者のビジョンや考え方。「日本を変えたい」「世界を変えたい」、そんな志を持つ経営者の皆さんに寄り添いながら、日々どんなサポートをしているのか。スタートアップのIPO支援に精通するプライベート・コーポレート・ソリューション&アドバイザリー部長の長井里実が、IPOの基本的な流れと、現場での具体的な支援を解説します。

IPOとは?──未上場企業が上場する意義と目的

Q. まず、基本的なこととして、IPOの説明からお願いできますか?

 

IPOは、イニシャル・パブリック・オファリング(Initial Public Offering)の略で、未上場企業が証券取引所に株式を上場し、より多くの投資家が株式市場で売買できるようにすることです。主な目的としては成長資金の調達が挙げられることが多く、上場時のみならず、その後も資本市場から機動的に資金を調達できるようになります。他には、成長を加速させる目的での採用力やブランディングの強化を挙げられる方もいます。また、最近上場を目指す会社の多くは、成長を加速させるためにベンチャーキャピタル(VC)などから資金を調達しているので、イグジットと言って出資者による回収を求められるという構図もあります。
 

上場で会社はどう変わる?──ガバナンス強化がもたらす成長の足場

Q. 上場すると会社は具体的にどう変わるのですか? 

 

私が考える上場の本質は、準備のプロセスを通じた「非連続に会社が成長していくための足場作り」です。上場するには証券取引所の承認を得る必要があり、その定められた要件をクリアするためには、企業側がIPOを意識してガバナンスを強化しなくてはなりません。ガバナンスとは、「企業が永続的に収益を挙げる一方で、リスクを最小化しつつ、企業価値を最大化できる内部体制を構築すること」です。この仕組み自体が、会社が飛躍的に大きくなる時の礎になると思っています。

野村證券 プライベート・コーポレート・ソリューション&アドバイザリー部長 長井 里実
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野村證券 プライベート・コーポレート・ソリューション&アドバイザリー部長 長井 里実

上場までにかかる時間は?──資金調達環境と上場タイミングの選択

Q. 対象企業と関わり始めてから上場までには、どれぐらいの期間がかかりますか?

 

最短で2年程度です。ただ、最近は未上場企業に資金が大きく流れ込むようになり、未上場企業でも2桁億円を調達できるケースが増えてきました。調達の選択肢が広がったことにより、急いで上場せずにタイミングを見極める企業も増えています。ですから、主幹事証券を選んだ後、上場は5~6年先になるケースも多くなってきているように感じます。

成長企業とはどう出会うか

Q. そもそも企業とは、どのように出会うのですか?

 

どの領域が伸びるかを調べてアプローチすることもありますし、経営者からご紹介いただくケースもあります。あとは、べンチャーキャピタル、監査法人などの方々と話しながら、成長企業を見つけてお声がけしたり、スタートアップを集めたピッチイベントが最初のきっかけになることもあったりします。ただ、どの企業も上場準備を開始するまでは主幹事証券を決めないので、そこまでの数年間はずっと片思い。その後、主幹事証券の選定時にそのままご依頼いただくこともありますし、コンペを経て野村を主幹事証券にご指名いただくこともあります。

上場までの主なプロセス──審査対応とマーケティングの二本柱

Q.  実際に上場するまでには、どんなプロセスがあるのですか?

 

プロセスは審査対応とマーケティングの大きく2つに分かれます。まず、審査対応では、証券取引所の審査を通過できるよう、企業の内部管理体制を整備します。審査基準を意識しながら、それぞれの企業に合った仕組みを構築していきます。お客様との定例ミーティングでは証券会社からもアドバイスをします。一定の準備が整ったところで証券会社による審査が行われ、その後、企業側から証券取引所に上場申請をします。証券取引所の審査に通れば、上場承認となります。

 

一方、マーケティングでは、企業の真価を機関投資家に正しく理解してもらい、適切なバリュエーションを獲得するために、いつ、誰に、何を伝えるかについて戦略を描き、準備を進めていきます。
 

「経営者が何を成さんとしているのか」を理解する。それがIPO支援の原点

Q. 会社を支援する上で意識していることは何ですか?

 

一番大切にしているのは、「経営者が何を成さんとしているのか」を正しく理解することです。その上で、資本政策の議論や営業協力としての顧客候補先の紹介、エクイティストーリーの壁打ちなど、支援は多岐にわたります。調達では投資家を紹介しています。

 

エクイティストーリーとは、「投資家に対して、なぜこの企業に資本を投じる価値があるのかを、中長期の収益成長と価値創造からまとめたストーリー」を指します。企業の本質に迫り、中長期でその企業が実現することを足元の状況から一貫性をもって説明できるよう、策定します。経営者との対話から、いかに引き出し、描き出すか。企業と投資家、その両方を知っているからこそ、磨き上げられると思っています。

私たちには、「世の中を変える成長企業のさらなる成長を支援する」というミッションがあります。日本を、世界を変えていこうという企業を、経営者を支えしたい、というのが私たちの願いです。そのためには「何を成さんとしている会社なのか」。それを理解し共感することに尽きると思っています。ついては、経営者がどういうタイムラインや戦略で実現されたいのか。そして、野村として何ができるのかを常に考えています。

 

どんな成長企業も一本調子では伸びません。上下を繰り返しながら伸びていくものですから、健やかなる時も病める時もあるのが当たり前です。そうした時にこそ、野村として何ができるのかを考え、一度支援すると決めたら、ぶれずに伴走していきたいです。経営者が壁にぶつかった時や組織に問題が生じた時でも、共に議論しながら乗り越えていける存在でありたいと思っています。
 

「強みは人」 一枚岩で支える組織力の源泉とは

Q. 改めて、野村のIPOでの強さはどんなところでしょう?

 

シンプルに言うと「人」です。そして、組織力の圧倒的な強さだと思っています。創業者・野村徳七が大切にしていた「顧客と共に栄える」という価値観が社内に根付いていて、社員一人ひとりが「お客様のために」という共通の使命感を持って動いています。

 

これまで数多くのIPOを支援する中で、それなりにチャレンジングな局面も多数ありました。例えば、IPO直前のマーケットクラッシュやパンデミックといった外的要因もあれば、お客様の社内でガバナンス上の問題が発生する、といった内的要因もあります。一両日中に解決できなければ、現行のIPOスケジュールを断念せざるを得ない、といった緊急事象が起こることも、一度や二度ではなかったように思います。どんな時も、問題解決にむけて知恵を出し合い、乗り越えられる仲間がいる。「お客様のために」という共通の使命感の下、理屈や部門の壁を超えてチームが結束できるのは、野村の良さだと思います。

投資家を動かすマーケティング

Q. ほかにも強みはありますか? 

 

そうですね。的確な「マーケティング力」も強みかと思います。野村は、長きにわたりグローバルの機関投資家に対して「BUY JAPAN」という取り組みを続けてきました。難易度の高いIPOや大型IPOなどでも成功させることができるのは、常日頃から多くのディールを通じて投資家の考えを把握できているからであり、そのベースにあるのはこれまで積み上げてきた機関投資家との信頼関係です。

 

上場承認後、百戦錬磨の国内外の機関投資家に対して会社の説明を行うロードショーでは、経営者から直接プレゼンテーションをしていただくのですが、その裏側では、野村の機関投資家担当セールスが投資家と丁寧に対話を重ね、正しい理解を得るためのサポートを続けています。こうした社を挙げての連携があるからこそ、審査対応の確実さと投資家対応のノウハウが両面で機能し、厳しい局面でも上場を支えることができるのだと思います。

プライベート領域の展望

Q. 最後に、野村のIPOでの展望を教えてください。

 

この10数年で、未上場企業に流れてくるお金の量は大きく増えました。政府が2022年に発表した『スタートアップ育成5か年計画』もあり、スタートアップ支援が国の重要課題になっています。昨年は東京証券取引所からグロース市場改革(『グロース市場の上場維持基準の見直し等について』)が発表され、成長著しい会社がさらに飛躍できる土台が整いつつあると感じます。

 

こうした状況を受け、野村もIPOの手前側から、本気で企業の成長支援に取り組もうと考えています。上場前の資金調達はもちろん、それ以外のさまざまなビジネスサポートも、です。そこで、2025年10月に組織を再編し、プライベート・コーポレート・ソリューション&アドバイザリー部を設立しました。今までなかった「プライベート」という言葉を加えたのは、IPOにとらわれず、プライベート領域全般で、成長企業を多面的にサポートしたいという思いからです。

 

私の目標は、国内のプライベート領域の成長企業支援におけるトップチームを作ることです。ナレッジもソリューションも集結させて、お客様から、自分たちの会社にとってプラスになると思っていただける組織を作りたいと思っています。

 

日本を変えたい、世界を変えたい、新たな産業を作りたい──そう考える経営者の方々に、どんどん相談していただける存在でありたいです。

IPOひと筋20年の長井さんに聞きました。 気になる会社のポイントは?

Q. どんな会社が気になりますか?

 

まずは経営者、そして経営チームが気になります。どの業界に経営資源を集中するのか、ビジネスモデルを築けるのかも成長の大事な要素ですが、ビジネスモデルは磨かれ、深化していくものです。経営者が間違ったときにピボットできる柔軟さがあるか、壁にぶつかったときに乗り越えられるチームがあるか、そして、チームが1つになれる大義があるか、という点に興味があります。

 

もちろん組織としては徹底的にリサーチをしますし、数字も定性も確認します。その上で私は、その経営者とその企業に全身全霊をかけられるかどうか、という軸を大事にしています。

 

 

Q. 長井さんが考える、この仕事の醍醐味や魅力は?

 

強い想いと、高い目標をもつ企業の、経営の変曲点に当事者として関われることが一番の面白さです。加えて、法人ビジネスで、ここまでお客様と一緒に泣き、笑い、怒れる仕事って他にないかなと。お客様から「同志」、「戦友」と言っていただけるのが喜びです。