野村ホールディングスは、サステナブルな社会の共創を目指し、自己資金によるスタートアップ投資をスタートしました。第11回サステナブルファイナンス大賞(主催:一般社団法人 環境金融研究機構)で優秀賞を受賞した第1号の投資先は、持続可能な航空燃料(以下、SAF: Sustainable Aviation Fuel)やバイオ燃料の原料となる植物、ポンガミアの栽培研究や植林に取り組む米国のTerviva(テルビバ)社。
サステナブル社会共創投資を始めた背景や当社が目指すゴール、そして、投資先であるTerviva社の魅力を、野村證券サステナブル・イノベーション事業開発グループの濟木ゆかりと、Terviva社の創業者兼CEOであるNaveen Sikka(ナビーン・シッカ)氏にインタビューしました。

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- 野村證券 サステナブル・イノベーション事業開発グループ 濟木ゆかり
Q. まずは、これまでのサステナビリティ関連の取り組みを教えてください。
野村がこれまでサステナビリティ分野で行ってきたビジネスは、発行者が債券を発行して投資家から資金を調達するサステナブル・ファイナンスが中心でした。グリーンボンドやソーシャルボンドなどの発行のお手伝いです。それらは上場会社などの大規模企業のお客様が多い傾向にありました。他には、この分野でのM&Aの助言や、投資信託を設定・販売することを通じて投資家がサステナビリティ関連への投資を可能にすることがありました。なお、本業を通じた社会貢献活動としては、1990年代から25年以上にわたり、小学生から社会人までを対象に行っている金融経済教育があります。
Q. 今回の投資を始めたのはなぜですか?
例えば、社会課題のなかでも、脱炭素につながる新しいサービスや技術の開発などは簡単ではありません。時間もかかるため、スタートアップのアーリーステージ(創業後間もない初期段階)の会社が挑んでも、成功までには不確定要素が多い。挑むスタートアップはたくさんありますが、大きな夢や志はあっても、お金がないとなかなか課題の解決まで至らない。そういったスタートアップを早い段階から直接サポートしたいという思いから、2024年4月にサステナブル・イノベーション事業開発グループが新設され、2025年3月に社会課題の解決を目指すスタートアップなどへの直接出資を開始しました。
Q. この投資は、どういう仕組みになっているのですか?
今回の自己投資では、投資先が社会課題を解決し、インパクトを創出するところまで伴走します。出資後は、リサーチやフード&アグリビジネス・コンサルティングのチームなどが持つ専門的な知見を提供して支援を続けていく長期視点の投資です。投資先企業に求めるリターンとして、財務的な面もそうですが、「社会的インパクトという名の収益」も重視しているのが特徴です。
Q. 投資先の見つけ方を教えてください。
社会での大きな課題はもちろん、今注目すべき話題のビジネスや業界にも注目しているので、ピッチイベントやスタートアップ関連のイベント等に参加して日常的に情報収集をしています。また、野村グループ内外から対象企業の紹介を受けたり、整理された情報をもらうことで理解が深まり、話が先に進むことも多くみられます。例えば、野村證券内で未上場企業の調査を担当するフロンティア・リサーチ部からは、気になる業界の専門家を紹介してもらったり、レポートを共有してもらったり、投資先候補に対する率直なコメントももらっています。
興味深い候補企業が見つかったら、その企業の業界での優位性や、その事業がスケール化しそうかどうかを見ていきます。さらに財務状況や事業計画の調査を経て、社内の投資委員会にかけます。
Q. Terviva社はどのような経緯で選ばれたのでしょうか?
きっかけは、東京農工大学が2024年4月に設立し、我々も参画していた「SAFオープンプラットフォーム」という、SAFに関心のある民間企業と意見交換する場です。そこで、SAF・バイオ燃料の原料となる植物であるポンガミアの魅力を教えていただきました。調べると、ポンガミアの植林をしているスタートアップは日系も含め複数社ありましたが、Terviva社は圧倒的な知見があり、関連特許も取得していてとても先進的でした。また、2010年頃からフロリダやハワイ、インドやオーストラリアで植林と栽培をしていて、米国本社には研究設備も保有しています。そこでは、収量をさらに高めるための品種改良や受粉方法を研究していました。そういった他社に先駆けた栽培知見を保有している点が魅力的でした。
エネルギー問題は地球規模の大きなテーマです。SAF・バイオ燃料の原料も様々で、日本で一番多いのは廃食油ですが、圧倒的に量が足りません。植物由来の原料としてはパームや大豆などありますが、パームは人権・労働問題や、原料のアブラヤシの栽培が森林伐採に繋がっているという指摘もあります。大豆やトウモロコシ、サトウキビなどの可食植物は食料供給への影響がありますし、欧州ではそれらを原料とするSAFの利用について、厳しい規制・制約があります。そうなると、原料として注目を集めるのが、食べられない植物です。非可食の植物のなかではポンガミアは圧倒的に油分が多く、なおかつ荒廃地でも育つので森林再生にも繋がる点が、非常に良いと思いました。
国際航空分野では、ICAO(国際民間航空機関)が2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を設定していて、そのために通常のジェット燃料からSAFに置き換えていく必要があるわけですが、その供給量は不足しています。この問題に貢献し解決へとつながれば社会的インパクトも大きいと判断し、Terviva社への投資を決定しました。
Q. Terviva社にとって野村はどんなパートナーなのでしょうか?
我々はTerviva社にとっては初の金融機関の投資家です。野村の強みを生かした役割、例えばポンガミアの認知向上や植林の拡大につながる活動として、当社主催のサステナビリティ・ウィークでのご紹介やリリースなどを通して、新たな層へのアプローチが可能だと考えています。また、他の投資家へつなぐ、というのも当社ならではの期待されている役割だと思います。
Q. 今後はどういったところへの投資を考えていますか?
チームではそれぞれの”推し”を見つけようと話していて、環境面ではエネルギー、脱炭素、気候変動など、ソーシャル面では健康、教育などに注目しています。良い“推し”テーマだと、社内サポーターも自然と増えてきます。特に、日本は超高齢化社会で社会保障費の増大が懸念されており、経済産業省も国民の健康寿命を延ばす取り組みを推進しています。個人的には、こうした国の課題感と合う分野を追求したいと思っています。チームとしては、すでに次の投資委員会にかける候補企業もいくつか見つけているので、野村による自己投資で社会的なインパクトを与えられるスキームとして、社会課題の解決に取り組むスタートアップをどんどん支援していきたいですね。

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- Terviva(テルビバ) 創業者兼CEO Naveen Sikka(ナビーン・シッカ)氏
Tervivaがスタートしたのは2010年。私はエネルギーや農業などのコンサルタントを経て、2007年からカリフォルニア大学バークレー校の大学院で再生可能エネルギーを学んでいました。当時はクリーンテックの黎明期で、バイオ燃料の原料としてポンガミアに注目する投資家グループと出会ったのが、この事業をスタートするきっかけになっています。「Terviva」という社名は「Ter」はラテン語の土地、「Viva」は生命。荒れ地の命を取り戻すという意味です。
ポンガミアは耐性が高く、劣化した土壌でもよく育ちます。肥沃な耕作地を奪うことがありません。木として育つと1ヘクタールあたり約10トンの種子が採れます。大豆などと違い、樹木なので植えれば根を張り自分で30年、50年と成長し、上方への垂直的な空間も広がる、まさに「垂直型の大豆」です。
ポンガミアの主たる利点は非可食の油が抽出・精製できる点ですが、他にも利点が2つあります。ひとつは、Terviva社による独自の抽出技術を活用すれば、可食用の質の高いタンパク質を得られること、もう1つは、ポンガミアの根にいる菌が大気中の窒素を取り込んで植物の成長を促すため、土壌や周りの作物の栄養が増えることです。このように多くの可能性を持つ植物なので、いろいろな活用が考えられます。近い将来の主な市場は、SAF・バイオ燃料向けの油、家畜飼料向けたんぱく質、カーボンクレジットの3つです。
SAF・バイオ燃料に関しては、最も理にかなった原料はほぼ間違いなく廃食用油です。ただ、地球規模で脱炭素目標を達成するには、廃食用油では量が足りない。その不足分を埋める油を「育てる」ことが必要で、その最良策として考えているのが、肥沃な農地を奪うことなく、再造林として景観も再生し、土壌に炭素も戻せて、水や肥料もあまり必要としないポンガミアなのです。

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- ポンガミア油は、精製から使用までの全工程で排出される温室効果ガスを示す「炭素強度スコア」が他の燃料より低く、低炭素である点で優れている。
- 出典:Tervivaウェブサイト(英語) https://www.terviva.com/energy
SAFへの認可や導入促進に関してはハードルが高いイメージがありますが、まず、コストについては、ある程度の金額を投じて大規模に展開できれば、ポンガミアの未精製油価格を下げて、今の石油の原油価格に近づけられることも可能だと考えています。また、SAFに関する各国の規制や手続きに関しては、例えば日本では、野村をはじめとした企業からの支援もあり、国土交通省航空局(JCAB)と連携してポンガミアを「適格な供給原料」に加えてもらえるよう、ICAO(国際民間航空機関)に働きかけています。その他の国々でも同様に、各国のコミュニティの力を借りて、政府や機関に働きかけていくことが大切だと考えています。
最後に、ポンガミアが本当に意味を持ち始めるのは、何百万ヘクタール規模で植林して土地が再生され、雇用が生まれることでそこに暮らす人々を助け、大量の油やたんぱく質を生産できるようになったときです。現時点では市場は存在しませんが、将来的には、ポンガミアのたんぱく質や油を、大豆のように人間の食料として提供できる素晴らしい資源にしようと考えています。技術的にはすでに可能になっています。支援してくださる皆さんの力も借りて、それをなるべく早く実現し、30年、40年、50年先には、SAFはもちろん、様々な方法で脱炭素化の推進や人口増加に伴う食糧不足といった世界的な課題の解決に大きく貢献したいと考えています。
ナビーン・シッカ(Naveen Sikka)
Terviva(テルビバ) 創業者兼CEO
カリフォルニア大学(バークレー校)とコロンビア大学で学位を取得。ニューヨークタイムズなどメディア掲載も多数。気候関連技術に取り組む150社以上がからなる組織、Elemental Impactの取締役も務める。