野村證券には、上場を目指す企業にフォーカスしたリサーチ部署があります。世の中のこれからのトレンドにも詳しい彼らが、野村の100周年、昭和100年にかけて、12の業種の歴史を深掘りした「100年史とその近未来」を発行しました。会社のなかでもユニークなリサーチを行っている彼らのミッションと業界100年史に込めた想いを、フロンティア・リサーチ部長の池内 一にインタビューしました。

上場を目指すお客様企業の可能性を探り、魅力を明確にする

Q. 今回の産業別「100年史とその近未来」を作った野村證券フロンティアリサーチ部は、会社の中でどのような役割を担っている部署ですか?

 

私たちの部のミッションは、スタートアップや未上場企業が株式を証券取引所に新規上場するIPOに向けた支援や、新産業の調査を通じて、お客様である企業の成長と社会課題の解決を後押しすることです。いまは、そこに加えて、未上場企業を中心としたいろいろなお客様に本業支援のための情報提供をしたり、ディスカッションを通じて、その企業の成長支援をしたりもしています。

 

法人のお客様である経営者との議論の先には、事業承継やM&Aなどの話が出てくることもあるので、そういったケースでは、ほかの部署とも連携して、野村の総力を挙げてお客様を支援しています。

 

Q. IPOに向けた支援について、もう少し具体的に教えてください。

 

株式上場の意欲がある未上場企業のお客様に対してIPOの準備に向けた調査をします。そして、野村としてどうすれば投資家にお客様企業の特徴を最大限伝えられるのかを考えて、サポートしています。

 

具体的には、まずお客様である経営者とお会いし、本業面でのお話を伺いながら事業内容をしっかり理解します。そのうえで、お客様の企業が上場した暁にはどの程度の規模感になりそうか、どれだけの成長ポテンシャルが見込めるか、また、考えられるリスクは何かなど、その市場環境や競合企業の調査も含め客観的に調べて、社内向けにレポートしています。

ベンチャー企業の情報が集まるので、未来のトレンドも常に調査

Q. 皆さんも社外に情報発信をされることはありますか?

 

そうですね。上場企業をカバーしているアナリストのように表に出るリサーチと比べると、どうしても黒子のような存在にはなりますが、社外向けにもレポートやピッチ資料を作っています。スタートアップの調査をしていると、我々の部署には自然とスタートアップに関連した情報がたくさん集まってくるんです。こういった企業の取り組みは、社会課題の解決や新たな技術・ビジネスモデルの社会実装を目指すものが多く、それらはまさに新産業の種といえます。そのため、我々にとっては、常に世の中を先回りして成長や変化が期待される業界を調査したり、未来やトレンドを調査したりするのは大切な仕事です。

 

各リサーチャーは業種で分かれ、これからホットになりそうな分野を掘っていく。そうすると、関連するベンチャー企業が本当に出てきた時にその知見が活きてくるわけです。

Q. 世の中の未来を探る。なかなか面白そうなリサーチですね。

 

純粋に世の中どうなっていくのか眺めながら、付随するいろんな企業が出てきそうだなと、面白がりながらやらせてもらっています。メンバーも好奇心旺盛で、世の中の動きを知りたがる人が多いです。

「産業別100年史と近未来」は、未来に動きのありそうな12業種を選択

Q. 今回、未来を見ている皆さんが「産業別の100年史と近未来」というレポートを、12業種で作ろうと思ったのはなぜですか?

 

2025年は野村の創立100周年であり、昭和元年から数えて昭和100年にもあたる年です。なので、100年を振り返るチャンスは今年だけかなと。我々のリサーチは近未来が中心で、産業を成り立ちから深堀りする機会は多くはなかったので、温故知新、リサーチャーがそれぞれ担当している産業の歴史をしっかり理解したうえで現在を把握して、そのうえで未来を語れれば、リサーチャーとしての厚みが一層増すと思ったんです。

 

Q. 12種類のテーマはどう決めたのですか?

 

産業ごとにリサーチャーを配しているので、それぞれ自分が深く掘り下げたい対象を決めてもらいました。ただ、最後は未来を見たいので、未来に変化がありそうなものから選んでもらいました。結果として、「創薬の100年史と近未来」のような骨太のものだけでなく、変わったところでは「養殖の100年史と近未来」なども。

 

養殖は担当者がその産業の専任なわけではなく、外食を含めた食の産業を広くカバーしているのですが、リサーチャーが言うには、外食や食品よりも養殖の分野のほうが、今後変化が見られそうだと。実は遺伝子解析や遺伝子組み替えがされていない食べ物って天然の魚ぐらいなんです。畜産物や野菜などの植物はほぼ品種改良がされています。世界的な人口の増加や地球環境が変化するなか、品種改良と陸上養殖などの新たなシステムの組み合わせで成長余地が多分に残されているのは養殖だ、ということで養殖を選んでいました。

 

それぞれ将来の変化を見据えたうえでテーマを決め、様々な取材をして執筆しました。

「産業別100年史と近未来」のテーマとなった12業種

エネルギー,創薬,物流,養殖,半導体,化粧品,モビリティサービス,医療,ロボット,AI,企業システム,マーケティング,漫画,アニメ
エネルギーの100年史と近未来

Q. 実際にこのシリーズを作ってみていかがでしたか?

 

想像を超えた発見がありました。個人的には「エネルギーの100年史と近未来」の最初のページはインパクトがありましたね。エネルギーの歴史=テクノロジーの歴史で。エネルギーを活用するために様々なテクノロジーが必要になり、そこからあらゆるものが動き出した。いわば人類のこの100年は、エネルギーがなかったらできてないというような書きぶりで始まっています。それぞれの分野で産業のうねり、変化がかなり捉えられて面白い発見がたくさんあると思います。

産業のうねりや潮流が見え、新しい気づきの助けに

Q. どんな方にこのレポートを読んでいただきたいですか?

 

産業のうねりや潮流が見えるので、業界の方はもちろん、就活中の方や一般の興味関心のある方まで幅広く手に取っていただきたいです。業界の歴史や将来の変化について知りたいときなど、その考察の資料としてパラパラとでも見ていただくと、新しい気づきがあると思います。

野村證券 フロンティア・リサーチ部長 池内 一(いけうち はじめ)
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野村證券 フロンティア・リサーチ部長 池内 一(いけうち はじめ)

Q.  最後に、チームとしてのメッセージがあればお願いします。

 

証券会社で企業調査をするチームでありながら、株式投資のための調査ではない。好奇心を持って、未来を面白がって調べて回るチームって意外と少ないのではないかと、お客様とディスカッションするなかで感じます。この12業種のレポートを通してそうした野村證券の仕事の幅の広さ、深さも感じてもらえたらと思います。

 

今の時代は、法人の皆さんもいろいろな金融機関とお付き合いをされていると思います。ただ、お客様と本業でディスカッションができる金融機関はそう多くはないのではないかと。本業での壁打ち相手になりながらそのなかで運用や事業承継などのご相談もあれば、オール野村として対応する。そのために、私たちは存在しているのかなと。ですから、新産業の調査だけでなく業務範囲を広げようってことで、今回のような取り組みをさせてもらいました。

 

12業種いろいろあって、気づきや学びの助けになると思いますので、ぜひ一度ご覧いただければと思っています。

「100年史と近未来」全12業種 調査レポート

「産業別100年史と近未来」をテーマに、全12業種についてまとめた調査レポートは、こちらからお読みいただけます。