チームリーダーに聞く強くて良いチームの作り方 Case 5
野村證券 ITインフラストラクチャー部長

シリーズ「チームリーダーに聞く、強くて良いチームの作り方」。第5回は、野村證券のITインフラストラクチャー部長を務める亀倉 龍へのインタビューです。

 

野村グループのITインフラ標準化に取り組む1,500人規模のチームで、メンバーの能力をいかに引き出し、どうやって共通のゴールに向かわせているのか。異文化コミュニケーションやメッセージ浸透のための工夫などについて聞きました。

 

幼少期をブラジルで過ごし、海外での業務経験も豊富な亀倉が、ダイバーシティあふれる自身のチームをどう強くしているのか。その実践から、 “グローバル標準化を進めるうえで欠かせない「伝え方」と「学びの仕組み化」のポイント”を探ります。

最大のミッションは野村グループのITインフラの標準化

Q. まずはチームの仕事などを簡単にご紹介ください。

 

私たちはITインフラのチームなので、わかりやすいところでは、サーバーやPC、電話、インターネットの接続やオンライン会議など、ITシステムの基盤(インフラ)を担当しています。最大のミッションは野村グループ全体のITインフラにおけるグローバルでの標準化です。メンバー構成は、システムを開発する側と運用する側、そして電話やPC、サーバー、ネットワークなど、技術分野で分かれています。実際のITインフラの技術分野は100近くに細分化されており、それぞれの分野にスペシャリストがいるので、グローバルでの人数は1,500人、そのうち日本には300人がいます。日本だけで言っても、メンバーの9割以上が中途採用のプロフェッショナルで、国籍でいうと18カ国のメンバーが在籍しています。

1,500人規模が必要な理由:PC6万台/サーバー4万台/24時間365日

Q. なぜそんなに人が必要なんですか? 

 

野村グループのITの土台すべてを見ているからです。例えばグループで持つPCの数だけを見ても約6万台はあるので、その故障対応などのためにおよそ社員100人に1人はIT担当者を置いています。また、東京のデータセンターからは全国に100程度の回線を引いているので、その通信対応に10人ほど。さらに、サーバー自体も世界に4万台あり、24時間365日稼働しているグローバルビジネスに対応できる人員の確保を各国でしています。ITインフラにおけるグローバルでの標準化の取り組みは野村がリーマン・ブラザーズを承継してからなので、最初はグローバルにビジネスを行うホールセール部門だけが対象で、そこから少しずつ広がって人数も増えていきました。

 

実は、これらは個別に動いているわけではありません。例えば、社員がPCでメールを見る、オンライン会議に参加する、社内システムにアクセスするといったことだけでも、端末、認証、ネットワーク、サーバー、セキュリティ、回線、クラウドなど、複数の技術が必要です。どこか一つでも不具合が起これば、業務に影響が出る。日頃は意識されなくても、“何も起きない状態”を支えるために、多くの専門性が必要なんです。

 

Q. この規模のITチームは業界では当たり前なのでしょうか?

 

日本では、ITの運用を外部のベンダーに委託する形も一般的なので、社内にどれくらいの人が関わっているかは見えにくいです。一方、グローバルの証券会社では、ITを社内で担うのが基本なので、私たちと同じくらいの規模のチームを持っている会社は多いと思います。証券業界では、ITシステムの導入・活用がものすごく広範囲に、大規模に進んでいるので、外部に任せているとトレンドをキャッチするスピードが遅れてしまうのです。

 

技術そのものの変化も速いですし、業務要件も常に動いています。だからこそ、現場に近いところで技術を見て、必要な判断をすぐにできる体制が重要になります。

野村證券 ITインフラストラクチャー部長 亀倉 龍
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野村證券 ITインフラストラクチャー部長 亀倉 龍

毎月10時間は、業務時間を「学び」に使ってほしい

古いものを早く捨てる――新しい技術を入れる余白をつくる

Q. 業務にあたる上で、皆さんが日々意識しているのはどんなことでしょうか?

 

2つあります。1つは古いものを抱え込まず、早めに入れ替えること。そうしないと新しいものを入れられない。皆さんもスマートフォンを3年ぐらいで買い替えますよね。それと同じことをITでもやっていく。もう1つは、新たなテクノロジーも常にキャッチできるよう動いています。スマートフォンに新機能が出たらすぐ使い方をマスターするのと同じことです。

 

ただ、現実には古いものが残る中で新しい技術を取り入れなければならない。既存の環境とのバランスを取り、全体を安定して動かしていく必要があります。そこはかなり職人的な世界でもあります。

 

そのための施策として、5年ほど前から、メンバーには全員業務時間のうち毎月10時間を研修に使って、新しい情報の収集や新たなスキルセットを身に付けてもらっています。幸いなことに、野村グループはグローバルでオペレーションをしているので、海外のトレンドをタイムリーに共有できることも強みだと思います。また、海外出張を通じて他の地域の人と一緒に働いたり、ワークショップで技術の共有もしたりしています。IT関連部署に所属するメンバー全体で自由参加のセッションもやっていて、「オンラインで誰々さんがこのテクノロジーについて話してくれますよ」と伝えると、強制せずともみんな興味を持って聞きに来てくれます。海外は人材の流動性が高いので、最先端の経験者が他社から入社して、野村に知識を入れてくれるケースもありますね。

 

ITインフラを取り巻く環境は、インターネットの普及、クラウド化、ハイブリッドワークへの対応、そして今はAI活用へと絶えず変わり続けています。変化が速いからこそ、意識して学ぶ時間を確保しないと、すぐに置いていかれる。毎月の10時間は、そのための最低限の土台だと思っています。
 

旧リーマンの知見の標準化が加速した

Q. グローバルでの標準化では、旧リーマン・ブラザーズの知見はかなり参考になったのでしょうか?

 

おっしゃる通りです。彼らは当時から完全なグローバル一体運用でしたが、野村は各地域バラバラでしたからね。ただ、標準化の過程では、日本と海外のカルチャーの軋轢(あつれき)が大きくて、なんで変えなきゃいけないんだ、なんで英語でやらなきゃいけないんだ、ここは日本だぞと(笑)。でも、何かを変えるたびに、少しずつその便利さを実感してもらえるようになり、全てが一緒になったとき、野村でもやっとグローバル一体運用が常識の世界に変わりました。パンデミックは、それを進める大きな転換点になりましたね。
 

言葉が拙いからこそ、あえて面と向かって話すことが大切なんです

強いチームの条件は「多様性」+「特定技術に依存しない」

Q. 亀倉さんが考える強いチーム、いいチームを教えてください。

 

文化も含めてダイバーシティがあるチーム、そして一人ひとりが特定の技術だけに依存せず、守備範囲を広げていける――そんな「いろんなことできる人」がたくさんいるチームです。1つの技術に偏ると、それが廃れたときにチーム全体が弱くなってしまうからです。

 

また、国が違うと見ている視点も違います。例えば日本の「人情型」と欧米の「ロジック型」のように、考え方が違うものが混ざっていると、いろいろな見方が出てきます。無理にそろえなくても、そこはバラバラのままでいいと思っています。

 

以前は国籍や言語でレポートラインを分けて、上司をそれに合わせてつけていました。でも今は、そこまで気にせず一緒にやれる段階まで来ています。

垣根が薄れるまで5年。ぶつかったら理由を解きほぐす

Q. どれぐらいで、垣根はなくなっていったのでしょうか?

 

5年かかりましたね。簡単ではありませんでした。ただ、ぶつかったらその理由をすぐに解きほぐす。「言葉ができないからこそ」メールで済まさず、面と向かって話をする。これを徹底しました。会って話すと全然違うので、海外から日本への出張もしてもらっています。「何でもいいから話そう」を合言葉にやり続けて5年。顔が見えれば、敵対心なんてなくて、「頑張っているけど言葉が拙かっただけだ」と分かる。加えて、日中一緒に仕事すると、夜にパーソナルな会話もできる。そうすれば人は仲良くなるんですよね。だからこそ、出張者が来たときは仕事以外の時間も含めて、関係性を近づける工夫をしています。

わかりやすいメッセージを、シンプルにしつこく伝えています

グローバル・ワン・チームを浸透させる――定義+双方向のQ&A

Q. 目指しているのはどんなチームですか?

 

私たちが目指しているのは「グローバル・ワン・チーム」「グローバル・ワン・インフラ」です。「グローバル・ワン・チーム」とは、国や拠点をまたいで同じゴールや運用で動ける状態のことであり、「グローバル・ワン・インフラ」は、拠点ごとに分断せずIT基盤を標準化し、一体運用する考え方です。そのために、ここ2~3年は海外からも継続的に数人の技術者に来てもらっています。来ると1カ月いることもあります。本当は全員を海外出張させてあげて実際にいろんな経験をさせてあげたい。聞くと見るでは大違いですから。

 

Q. 大きな組織をゴールに向かわせる立場として心がけていることは?

 

わかりやすいメッセージやゴールを、シンプルにしつこく伝えます。そして、一方通行でなく、必ずQ&Aをする。ですから、世界の拠点に行くたびにタウンホールミーティングをやって、誰が質問してもいい時間を作っています。

 

言葉や国が違うだけでコミュニケーションが取れないでいるのはもったいない。話してみると「そんなすごいこと考えてたの。真似してもいい?」なんてことが溢れています。海外は先端技術のキャッチアップが早いので話していると本当に面白いです。

 

Q. 海外というのは、アメリカだけでなく?

 

アメリカはもちろんですが、野村の主要拠点があるイギリス・香港・シンガポール・インドも全て早いです。人がぐるぐる回る。会社内の異動よりも速いペースで会社間で動く。ある企業で最先端をやった人は移った先でも同じことができるので、技術の流通が早い。すぐ出ていっちゃいますけど(笑)。そこは割り切って、この循環を続けながらチームとしても会社としてもより良くなっていければいいと考えています。

 

Q. ITインフラの仕事ならではの面白さは、どんなところにありますか?

 

ITを使っていない部署はないので、私たちは全社のさまざまな要件を見ながら、どのテクノロジーが適切かを考えています。ITインフラは単なる技術部門ではなく、全社の動きや事業の変化を広く捉えられる仕事の一つ。どの部署で何が起きていて、次に何が必要になるのかを見渡せるのは、この仕事ならではの面白さです。技術だけでなく、ビジネス全体を見ながら考えられるのが、ITインフラの奥深さだと思っています。

亀倉 龍(かめくら りゅう)

野村證券  ITインフラストラクチャー部長

1994年、野村総合研究所入社。2010年、野村證券入社、グローバルIT部(当時)配属。以来15年以上にわたり野村證券、グループ全体のITインフラ構築・運用に携わる。2020年より現職。幼少期をブラジルで過ごし、野村総合研究所時代にサンフランシスコ、野村證券時代にロンドンで勤務し、グローバルなフィールドで経験を積む。

94年慶應義塾大学修士号取得(Computer Science)