戦略・決算

奥田グループCEOメッセージ #2
野村の様々なビジネス

『Nomuraレポート2024』での奥田グループCEOのメッセージを3回に分けてご紹介します。第2回は、野村グループが取り組む様々なビジネスについてお話しします。

サマリー

  • プライベート領域の拡大: これまでのパブリック領域(上場株式等)に加え、オルタナティブ投資やプライベート・エクイティ等の新たなアセットクラスの強化を通じて、お客様の資産運用の多様化に貢献します。成長途上のプライベート領域に他社に先駆けて取り組むことで、業界の発展と当社グループの成長を牽引します。
  • B to B to Cのビジネスモデル: 法人・機関投資家(to B)と個人投資家(to C)の両方で高い競争力を持つことが、グループ全体としての他に類を見ない総合力に繋がっています。さらに、それぞれの強みを別の領域に活かすことで、すなわち部門間の協力を通じて、成長機会を発掘していきます。
  • 日本のフランチャイズを活かした、グローバル戦略の深化: ホールセールビジネスのうち、収益の約3分の2は海外で生み出されています。日本での圧倒的なネットワークに加え、世界に広がるグローバルなプラットフォームを通じて、スケールの大きなビジネスを多数手がけています。

プライベート領域への挑戦

従来の枠にとらわれず、自由な発想で新たな挑戦を続けます

アセットマネジメント・ビジネスにおいては、オルタナティブ、プライベート・アセットへの取り組みなくして、今後の当社の成長はないと確信しています。逆に、この分野で先頭を走ることが大きなアドバンテージとなります。

インベストメント・マネジメント(IM)部門では2021年4月の設立から3年で、オルタナティブ運用資産残高は3倍の1.9兆円にまで拡大しました。

プライベート領域への拡大・強化に向け、新たな取り組みの成果も数多くでてきています。例えば、日本では「業界初」となる「特定投資家向け銘柄制度(通称J-Ships)を活用したプライベート・アセットに投資する私募ファンド」として、非上場企業にバイアウト投資を行う運用戦略の投資信託の販売を実施しました。また、同制度の枠組みを活用し、インベストメント・バンキング(IB)が担当するスタートアップの資金調達のサポートも実施し、当社のお客様に非上場株式、プライベート・エクイティへの投資機会を提供しています。

これらの事例は、部門や、会社等の組織の枠を超えた協力の結果、実現できたものです。新規ビジネスのチャンスは、既存の部門と部門の間にあり、お互いに協力することで、ビジネスとしての成果が生まれると考えています。今後も引き続き、従来のやり方にとらわれることなく、自由な発想で、失敗を恐れず、新しい挑戦を続けていきたいと考えています。

既存ビジネスの拡大・強化

戦略的提携を通じて、成長機会を追求します

新たな収益源の開拓だけではなく、既存ビジネスの拡大・強化も重要です。例えば、国内の富裕層を対象としたビジネスにおいて、今後の収益の拡大のためには、当社と取引いただくお客様の数をいかに増やしていくかが課題となります。

現在進めている、地域金融機関との戦略的提携においても、着実に成果がでてきています。実際、これまで、一つの県に一つの支店しかもっていなかったこともあり、十分にアプローチできていなかったお客様に対して、当社からの情報提供、ご提案、商品サービスをお届けできるようになりました。提携した金融機関と当社、双方にとってお客様にご提供できる付加価値を高めるとともに、成長機会を得ることとなります。
さらに、長期的視野に立ち、一緒に地域経済に貢献していきたいと考えています。

B to B to C

「法人・機関投資家」(to B)と「個人投資家」(to C)の両方での高い競争力が、当社のビジネスモデルの根底にあります

当社のビジネスモデルは、法人・機関投資家を対象としたいわゆる「B to B」ビジネスと個人投資家を対象とした「B to C」ビジネス、この両方を展開しています。この2つのビジネスがともに競争力を備えていること、さらに「B」と「C」をつなぐビジネスを手掛けていることが、当社の強みの一つです。

事例として、企業の資金調達案件をあげることが出来ます。ホールセール(WS)部門の法人のお客様との強力な信頼関係から資金調達の案件を引き受け、機関投資家だけでなく、新たな株主として個人投資家を希望される場合、ウェルス・マネジメント(WM)部門のチャネルを通じて投資機会を探している個人投資家につなげることで、結果として法人と個人双方のお客様に満足していただくことが出来ます。

ワークプレイス・ビジネス

お客様企業との強い繋がりを活かし、その企業に属する個人のお客様へのサービスも拡大しています

加えて、ワークプレイス・ビジネスは、野村の最も得意とする「B to B to C」ビジネスの典型です。IPOを果たしたスタートアップの起業家とその従業員、上場企業の役員、現在、多額の金融資産を保有する富裕層は、このようなところから出てきた方々です。また、当社は企業の持株会等で国内最大のシェアを有しており、その持株会に属する方々にサービスを提供することで、潜在的なお客様を開拓していきます。

実際、海外では、「エマージング・ウェルス」(将来の富裕層候補)として、早い段階からの囲い込みを加速してきています。このエマージング・ウェルスというのは、スタートアップ経営者やその従業員がストックオプションなどによって、資産がキャッシュ化されていないものの、潜在的に富裕層となる可能性の高い顧客セグメントを指します。

将来の富裕層に、出来るだけ早く野村のお客様になっていただけるよう、ウェルス・マネジメント(WM)部門だけではなくグループをあげて、この課題に取り組んでいきます。

バンキング・ビジネス

野村信託銀行は、富裕層ビジネスにおける非常に重要な存在です

富裕層とのビジネスにおいて、銀行機能、融資機能は非常に重要です。金利が上昇するなかで、バンキング・ビジネスの強化を図っていきます。

野村信託銀行は、2023年10月に30周年を迎えました。ローン残高は5年間で約3倍になるなど、規模も大きく拡大してきています。金利のある世界で、グループ内の銀行機能を担っている野村信託銀行は、富裕層ビジネスの拡大・強化をはじめ、戦略的に非常に重要な存在です。

加えて、2024年4月には、公募投資信託として日本で初めて受託者である野村信託銀行のみが基準価額を算出する「一者計算スキーム」を採用した公募ファンドも設定されました。

既存の3部門に加え、バンキングが第4の部門となるべく、グループ内の連携を強化するとともに、独立した銀行として成長していけるよう、経営体制の強化とビジネスの拡大を図っていきます。

グローバル・ネットワークの強み

世界に広がるグローバルなプラットフォームを通じ、スケールの大きなビジネスを多数手がけています

野村グループは、グローバル金融サービス・グループとして、約30の国と地域にネットワークを有しています。

ホールセール(WS)部門の収益は、約3分の2が海外、残る3分の1が日本関連のビジネスとなっています。収益の半分以上を海外で稼ぐ、その源泉は、これまでに地道につくり上げてきたグローバルなフランチャイズにあります。

世界と日本を双方につなぐだけでなく、米州、欧州、アジア、各地域をつなぐことが出来る基盤を有しています。それを活用することで、世界中のお客様に、お客様のニーズに最適なソリューションを提供することを目指しています。私たちは常に世界と日本、そして各地域とのつながりを大切にし、お客様にとって最高の価値を提供できるよう努めてまいります。

また、今後の投資先としては、巨大なポテンシャルをもつインドおよび中東に注目しています。当社はインドに4,000名以上の社員を擁しており、実は日本に次いで2番目に大きな拠点です。インドでは、オンショアで15年以上の歴史があり、ホールセール(WS)部門のフルサービスプラットフォームを構築しています。

中東では、2022年12月、IWM(インターナショナル・ウェルスマネジメント)のドバイ・オフィスを開設しました。アジアや中東の富裕層は、自らの資産運用とともに、ファミリーが経営しているビジネスを持つケースも少なくありません。そのため、主たる意思決定者である株主との関係を強化しながら、法人に対するサービスの提供も進めていきます。

グローバル・ビジネス事例
Revisit Japan 日本の魅力を海外投資家に伝えるアプローチ

2020年7月に新設した「コンテンツ・カンパニー」では、コロナ禍収束後の日本企業、日本株の魅力を伝える取り組みとして「Revisit Japan」をコンセプトに、2022年3月、どこの会社よりも早く海外投資家へのアプローチを再開しました。延べ44名のリサーチャーが、世界18の国と地域、34都市に赴き、1,000件を超える1on1ミーティングを実施しました。結果として、昨年度、日本のエグゼキューション・ビジネスは過去10年間での最高収益となりました。

サステナブル・ファイナンス

2026年3月までに1,250億ドル規模への関与が目標です

持続的な社会を実現していくうえで、サステナブル関連ビジネスを通じて、社会課題の解決に貢献していくことは大切です。当社では2022年3月期から2026年3月期までの5年間で累計1,250億ドルのサステナブル・ファイナンスに関与することを目標としており、グローバルにサステナビリティ関連債券の引受や日本でのトランジション債の引受を積極的に取り組んでいます。

国内では当該債券の引受で1位を獲得しており、グローバルでもトップ10入りを果たすなど、着実に成果を上げています。

サステナブル・ファイナンス事例
IPF専属チームを立ち上げ、国内外のサステナブル案件を手がけています

2017年に米国で、インフラと電力関連のIPF(インフラストラクチャー&パワーファイナンス)専属チームを立ち上げました。設立以来、インフラやサステナブル資産のプロジェクトを150億ドル以上手掛けており、その半分以上が太陽光発電やその他再生可能エネルギーに関連した案件です。

IPFは、日本でも多くの案件を手掛けており、約20億ドル(約3千億円)が日本関連のビジネスとなっています。日本国内でもカバーできる体制が整ってきており、更なる強化を図っていきます。

デジタル

将来の金融ビジネスには、ブロックチェーンや暗号資産技術が重要な役割を果たすことが期待されています。

デジタル事例1
レーザー・デジタル: ドバイの暗号資産に関する営業ライセンスを取得

2022年スイスに設立した野村グループのデジタルアセット子会社であるレーザー・デジタル・ホールディングス AGでは、2023年8月、ドバイの暗号資産規制機関から営業ライセンスを取得し、収益獲得に向けた取り組みを進めています。あわせて、同年10月、日本拠点も設立し、グループとの連携強化およびビジネス開拓に取り組んでいます。

デジタル事例2
セキュリティ・トークン: これからは個人では難しかった大型不動産投資も可能に

野村證券では、2024年3月までに約535億円のST(セキュリティ・トークン)による資金調達に関与し、この業界のフロントランナーとして地位を確立(シェア:43.8%)しています。STはデジタル証券とも呼ばれ、ブロックチェーンなどの技術を使い、不動産や債券などを裏付けにしてデジタル化された有価証券です。STを活用することで、個人では難しかった大型の不動産投資について、小口・少額からの提供が可能になっています。

プラットフォームの外部への提供

野村の事業インフラを他社にも提供し、業界全体の発展に貢献します

当社は、自社で開発した2つのプラットフォーム(事業基盤)を広く外部に提供することで、新たなビジネス展開と収益の拡大を目指していきます。

2021年より金融商品仲介業務を中心とした金融サービス・プラットフォームの提供を開始しています。地域金融機関との戦略的提携はその先駆けで、着実にビジネスの拡大を図ってきました。今後は、証券業界の総合プラットフォーマーとしての役割を果たしていきたいと考えています。

最近では、複数の金融機関から「証券業務を行うにあたりミドル・バック業務(例:財務やITなど)を自社でもつことが大きな負担となってきており、こうした業務を野村で引き受けてほしい」といった要望を受けることも増えています。この部分をカバーするプラットフォームを野村から提供し、証券ビジネスの発展に貢献できれば、双方ともにメリットを享受できると考えています。

もう一つの取り組みは、運用会社向けのプラットフォームです。日本政府は、運用会社の新規参入の促進を目的として、日本版「EMP(Emerging Managers Program)」の創設を公表しました。しかし、新規参入の一番の障壁はミドル・バック業務といわれています。現在、大手の運用会社が使用しているシステムはコストが高く、参入時の大きな負担、障壁になりかねません。この機能についても、当社がリーダーシップを発揮し、他社でも容易に利用できるプラットフォームを構築していく考えです。

野村がグループとして保有しているインフラ機能を他社でも活用できるようにすることで、日本における証券ビジネス、運用ビジネスのプラットフォーマーを目指します。

グループCEO就任前に、野村に対するイメージを伺った際、「社会性がやや欠けている、自分のことだけを考えているのでは?」と言われたことを、今でもよく覚えています。社会課題に対する提言等も積極的に行ってきました。プラットフォームの外部への提供は、業界はもちろん経済全体への貢献に寄与するものと考えています。

この構想の実現に向けて、グループ内の体制や人材等について整備を行い、他社との連携を含めスピード感をもって進めていきます。