
北海道江別市に、野村ホールディングス傘下の農園があります。20ヘクタール、東京ドーム約4個強の面積でトウモロコシとカボチャをメインに、最近ではジャガイモ、ビーツ、サツマイモなどを栽培し販売しています。「野村が農業を本格的に行っていることを知らない人は多いと思います」。そう語るのは、野村ファーム北海道 統括マネージャーの佐藤剛史。今回は、そんな野村の農業事業における、地方創生や循環型農業への取り組みを聞きました。
話を聞いたのは… 野村ファーム北海道 統括マネージャー 佐藤剛史 (野村證券より出向) |
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Q. そもそも、なぜ野村が農業を始めたんですか?
そうですよね。証券会社がなぜ?って普通、思いますよね。
そもそも野村が北海道で農業を始めたのは2011年のことです。目的は地方創生。特に、農業分野に着目して自治体や地方銀行が抱える課題解決に向けた調査やコンサルティングを提供することです。ただし、金融会社が机上だけで関わっても説得力もない。そこで、自社でも実際に農業を手掛けて知見と説得力を高めようと実証農場として野村ファーム北海道が設立されました。
ここで育てた作物や加工品は、地元で販売するだけでなく、楽天市場にも出品しています。私は農業に興味があったため、2018年に社内公募に応募して、こちらに出向して7年が経ちます。

Q. どういったものを作っているのですか?
トウモロコシとカボチャがメインですが、ジャガイモやビーツ、アスパラ、最近は温暖化の影響もあってサツマイモも作っています。この3年ぐらいは特に北海道でも暑い日が多く、品種替えなどについても悩んでいる状態です。
うちの農園は北海道では大きくありませんが、ある程度の面積はありますので、圃場(ほじょう)を変えながら畑を直す輪作に力を入れています。
Q. 農業を通して社会貢献活動をはじめ色々なことに取り組まれているようですね。
野村證券傘下の農場ならではの取組みとして、地元の中学生に対して金融教育を行っています。学生の皆さんにトウモロコシの収穫をしてもらったあと、学校でそれを販売してもらいます。売上の一部を部活動の資金に充てることで、稼いだお金をどのように運用していくかを実際に体験してもらっています。
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- 地元の中学校の生徒さんを招いての草取りや収穫の農作業体験。背丈以上のトウモロコシ畑で袋一杯収穫する子どもたち。その後は販売、料理教室など地域の方々も参加して大盛況のイベントでした。
また、規格外野菜を活用した循環型農業にも挑戦しています。サツマイモはどうしても規格外が多く出てしまう野菜で、どうにか廃棄処分せずに活用できる方法はないかと模索していました。昨年、札幌の円山動物園で餌の寄付を募集していると知り、200キロを寄附させていただきました。動物園の方と話すと、最近は餌代も高騰して苦労されているとのことでした。今年は、私たちが育てたサツマイモを食べた動物の排せつ物に由来する堆肥を動物園からいただいたので、それを土壌に撒いてサツマイモを育てることで循環を作っています。
サツマイモは収穫が一番大変なので、今年は秋の収穫期を迎えたら、近所の子供たちや円山動物園とつながりのある大学の学生さんにも参加してもらい、一緒に収穫体験をしていただくことも考えています。

Q. さまざまな作物を栽培されているので、収穫や販売でも工夫されていると聞きました。
トウモロコシは旬の時期が最も短く、収穫して3日で出荷しなければなりません。種まきの時期をずらすなど対策はするものの、今みたいに暑いと結局一斉に育ってしまい収穫しきれなかったり、味は良くても身が詰まっていないものなどは結局出荷できなかったりします。そこでこれらの有効活用として力を入れているのが農産物を自ら加工する6次産業化です。収穫したトウモロコシや栄養満点のスーパーフードと呼ばれるビーツをスープに加工して販売したり、ピクルスに加工したりして販売することで、一つの事業として収益を安定的に出せるようにしたいと考えています。
今後は動物の堆肥を活用して育ったサツマイモを活用したスープづくりも行う予定で、その袋詰めを農福連携※で地元の老人ホームのお年寄りにもお手伝いいただこうかと考えています。
スープは介護分野などでも活用いただけるよう、栄養面や健康面でも貢献できるよう探っていきたいと思っています。
※農福連携:障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組。 農林水産省ホームページ参照
Q. 農業で地域に貢献されている今、野村としての事業活動にもつなげたいところですね。
収穫体験や寄付などで地域の学校や動物園、スープを加工する工場などとも関係を築き、地域産業に貢献できるようさまざまな取り組みをしています。加えて、札幌市と多業種の民間企業が一体となって、北海道の豊かな「食」資源を活かし、新たな産業を作り出そうというプロジェクト、「さっぽろフードクリエーションズ」にも参加しています。そこでは自治体も含め、エネルギー、IT、メディアなど様々な業種や企業がワークショップなどを行いながら、食の課題解決に何かできないかと皆で模索しているところです。私たちもそういう中で、地方銀行などとも連携し、金融ビジネスの分野で何かお手伝いできることがないかを考えていければと思っています。名刺交換をすると、「野村」という個人が経営している農場と思われがちで、もう少しプレゼンスを上げて行きたいですね。
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- 長い冬を越し芽吹く春。夏から秋にかけて多くの野菜が収穫期を迎えます。
四季折々に美しい景色を見せてくれる豊かな自然の中で、野村ファーム北海道の野菜たちが育っています。
Q. これからの農業のために野村ができることとは?
歴史を紐解くと、創業者の野村徳七翁はボルネオ島でゴム農園やブラジルでコーヒー農園をやっていました。「豊かな社会を実現する」という想いで、金融の枠を越え、農業を通じて社会的課題を解決することが目的の一つでした。農業はイコール食でもあり、お金があっても食事ができなければ生きていけません。金融と農業のどちらかでははく、両方がともに重要であると認識していたのだと思います。
私たちの使命は、北海道をはじめとした地方の基幹産業である農業において、農家さんが思いつかなかったようなことを野村らしい着目点で見つけ、付加価値を提供し、産業の活性化を図ることです。農業ビジネスはとても裾野が広いため、作る前から収穫後まで様々な事業分野との関連があります。この産業が活性化し、資金の需要が高まれば、野村證券がそのお手伝いをさせていただくことで課題の解決につながるのではないかと思います。金融と農業をうまく結びつける役割が、私たちにはあると思っています。

左から、スイートコーンポタージュ、ビーツのボルシチ、バターナッツポタージュ、ホワイトコーンポタージュ
野村ファーム北海道 楽天市場店で販売中